1-R 仕事の進め方 スリランカ

輸出為替課のマネジャーになった際にメンバーから噴出した不満は「スリランカをなんとかしてください!」というものでした。

そもそもスリランカって何?

彼らの言うスリランカとは、インドの南に浮かぶ島国のスリランカで2010年頃に実施されていた政策に基づく案件でした。当時教師を含む同国の公務員の待遇に対する不満が高まっており、これを鎮めるために政府が打ち出した政策の一つに自動車の個人輸入の許可がありました。公務員が個人で自動車を輸入する際に自動車税等を免除するというものでした。個人が輸入者になるため、輸出企業は与信をとれないので信用状での決済を要求します。

スリランカに自動車を欲しい人が1000人いたとすると通常のケースでは1000台の自動車を一度に輸出するために1本の信用状を開設され、一度に1000台船積みし、1回で1000台分の決済を済ませます。そのために自動車の輸入代理店は存在するわけです。代理店は到着した1000台を在庫し、一人ずつ小売りしていくわけです。

しかしながらスリランカ政府の政策は一人ひとりの公務員にメリットを与えることを重視したため、1000本の個人が開設した信用状がバラバラとわが社に到着し、一つ一つ処理をし、1台ごとの船積み手続きを行い、1000回の決済を行うという極めて手間のかかる処理を余儀なくされるというものでした。自動車部は通常商社では卸値でした販売できないところを小売価格で売れる極めて利幅の高い商売なのでぜひとも請け負いたいもので、我々のチームには何とか我慢してくださいというスタンスです。

チームメンバーを集めて、対策を検討しました。これまでのやり方を聞くと、持ち込み銀行を決める担当者はできるだけ手数料の安い外資系銀行にバラバラに持ち込むことを優先し、内容チェックの担当者は想定外の量の対応にへきえきとし、その後の銀行手数料入力担当者も膨大な量の手数料計算書の処理に途方に暮れているということでした。

私が考えたとりあえずの解決方法は
①手数料入力を省力化するために、専用線でつながり手数料の勘定科目まで伝送してくれるメガバンクへの持ち込みとすること。これにより手数料入力の事務作業は圧倒的に軽減されることとなります。
②持ち込み銀行決定の担当者は銀行を決める手間が軽減されますが、持ち込み銀行には事前に持ち込み量を伝え、銀行側にも不満がたまらないように協力を要請することを指示しました。
③さらに内容をチェックする担当者には本件に関しては最低限のチェックのみにとどめること。チェックして信用状との整合性を整えるのは銀行保証が外れることを防止するためです。銀行保証が外れ、輸入者が支払いを行わないと入金を得られなくなる。そのリスクを避けるためにするものなのですが、本件に関しては輸入者は車が欲しい。信用状の書類不備など全く興味のないものです。だからチェックよりも作業量を優先することを決めたわけです。

これらの施策でメンバーの仕事量はずいぶん軽減されたと感じます。ただしそれでもまだまだ大変な数をこなさねばならない事実は残ります。

そこで、自動車部と書類を作成する担当部署のロジスティクス部門と我々全員で対策を検討することにしました。自動車部とて高利益率はうれしいのですが、担当者とくに末端の事務を担当する一般職の負担は相当なもので、残業中の一般職女性が深夜のオフィスで号泣していたという話が私の耳にも入ってきて、どげんかせんといかんとみんなで立ち上がったものでした。

あふれる水はおおもとの蛇口をひねることでしか根本的な解決はみつかりません。

我々はスリランカに飛んで、輸入を検討する個人に対して説明会を開催することになりました。スリランカの銀行にも協力を求めて、以下のようなスキームを考えました。

①個人はスリランカの銀行に対して国内で信用状を開設する
②受け取ったスリランカの銀行は一定数をまとめて1本の信用状を我々宛に開設する
③我々は1本の信用状を受領し、それに基づきまとまった量の自動車を船積みし
④まとまった量の資金を受領した信用状に基づいて決済する

この作戦は日本側の我々だけでなく、実は手間に泣かされていたスリランカの代理店・銀行にも喜ばれた結果になりました。

仕事は常に現場を回すだけでなく、高い視点から見つめなおすことで全員のWinWinにつなげていけることを自ら体で学んだ案件となりました。

 



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